プロディーラーはこう取引する

FXのプロと個人投資家の取引における大きな違いは、生の為替フローの情報に触れられるかどうか、と話しました。そこで、プロが行っている為替フローに着眼した取引手法を紹介します。これはあくまでも参考例であり、プロの行動を理解するということにとどめておいてください。
・ニューヨーク時間午後(東京時間明け方)

1ドル=89.13円~89.56円の狭いレンジ取引が続いていました。

1ドル=89円~89.10円には、海外ヘッジファンドマネージャーたちのドル買い指値注文が10億ドル以上あるとの噂があります。その日の海外市場では、1ドル=89.10円を一度も割らずに、シドニー市場から東京市場へ入りかけました。

・ニューヨーク時間16:30(兼京時間6:30AM)

日本の機関投資家(年金運用)が、1ドル=89.10円で5億ドル買いたいという連絡がある銀行に入ります。銀行のディーラーは、その注文を受けるとき、海外勢の買い注文の噂を伝えたところ、年金運用は1ドル=89円近辺ではなく、その少し上値である1ドル=89.10円に買いの指値注文を入れてきました。

・ニューヨーク時間17:00(東京時間7:00AM)

ドル/円は1ドル=8.920円を割れて下落する段階となりました。

すかさずその銀行のディーラーは、1ドル=89.15円~89.20円(平均買値は1ドル=89.17円)で、2億ドルのドル買いを実施しました。年金運用による「1ドル=89.10円での5億ドル買い注文」という為替フローの動きと、「1ドル=89円~89.10円の問に莫大な海外勢の買い注文があるという噂」から、1ドル=89円以下にはならないだろうと読んだのです。

前日から1ドル=89円を割れたのは一度だけで、それも長い下ヒゲとなっており、そのチャートを見れば、海外勢が1ドル=89円近辺に大量の買い注文を残しているのもうなずける展開です。

 

 

銀行ディーラーは、自分が持っているポジションを損切りする場合は、年金運用の買い注文である5億ドルと相殺すると決めました。つまり、損切りレートを1ドル=89.10円とし、年金運用の買い注文3億ドル分が1ドル=8910円で、市場で取引されれば、残りの2億ドルと自分のポジション2億ドルを相殺して注文を成立させるという戦略です。

もし、銀行ディーラーの注文が損切りとなった場合の損失は、

2億ドル×(89.17円-89.10円)=1400万円の損失となります。

その後、為替レートは1ドル=89.10円を触ることなく、ディーラーによる2億ドルという大きな買いにつられ、上昇展開となりました。利食いは、その日(ニューヨーク時間)の高値である1ドル=89.555円の少し手前、1ドル=89.50円で保有ポジションの半分の1億ドルを売りました。これで利益は、

1億ドル×(89.50円-89.17円)=3300万円となります。

残り1億ドルのポジションの利食いは、前日(ニューヨーク時間)の高値圏(高値は1ドル=89.875円)の1ドル=8985円と決めて、その後の相場展開を見ていく方針としました。

残存ポジション1億ドルの損切りは、1ドル=89.10円の年金運用の買い注文と相殺する方針は変えません。ただし、年金運用の買い注文が4億ドルすべて市場で収引されたら、自動的にその1億ドルを損切りにして、相殺することにします。

その後の相場展開による収益はどうなるでしょうか。もし1億ドルの利食いが1ドル=89.85円で取引されたら、収益は

1億ドル×(89.85円-89.17円)=6800万円

この場合の総合収支は、

3300万円+6800万円=1億100万円となります。

もし、1億ドルの損切りが取引されれば、損失は

1億ドル×(89.17円-89.10円)=700万円。

総合収支は

3300万円-700万円=2600万円です。

これはまさしく顧客の生の取引とグローバルな情報を駆使した、いわゆる為替の取引フローを利用した取引事例です。いずれも日本と海外の機関投資家の大きな注文を利用したため、最初から2億ドルという大きなポジションを取ることができましたから、ポジションを上乗せしなくても、当初の取引ポジションだけで大きな収益が見込める展開です。

 

 

今回、銀行ディーラーの損切りは、年金運用の指値注文と相殺できるという、損失限定が約束された状況でした。また、顧客の3億ドルの買いがすべてつくまで、自己ポジションの損切りと相殺する必要はないことは利点です。

なぜなら、1億ドルだけ取引されたあと、1ドル=8910円水準は堅いと市場が判断し、レートが戻って上昇していくケースはよくあります。この場合は、年金運用の買い注文である1ドル=89.10円が実際に市場で1億ドル約定した実績があっても、この銀行ディーラーはポジションを損切りする必要はありません。顧客の年金運用には「5億ドルのうち1億ドルだけ約定しました。残りの4億ドルを引き続き1ドル=89.10円買いで見ておきます」と連絡することになります。

逆に顧客の注文がなく、相殺での損切りができない通常の市場で、2億ドルを1ドル=89.10円で損切り注文を置くと、現在のドル/円市場の取引流動性を勘案すれば、損切りレートは平均1ドル=89.05円程度となる可能性が高くなります。場合によっては、もっと悪いレートで成立するかもしれません。顧客の買い注文がある場合とか、場合では、5pips以上差がつくことになります。

つまり、顧客の買い注文があったからこそ、それ以下の円高水準での損切りを免れることができたのです。もし予測が当たって、レートが反転上昇して2億ドルすべてうまく利食えたあと、レートが再度下落して、年金連用の1ドル=89.10円で5億ドル買い注文が引き続き残してあれば、同じような取引をもう一度トライできるのです。

このようにFXのプロ、特に銀行は生の為替取引や顧客の指値、逆指値注文をうまく利用して収益確保に努めています。この取引はテクニカル分析から求めた重要ななチャートポイントを利用することなく、顧客めフローと前日からの値動き(高値や安値、これもテクニカル分析に入ります)だけを利用して取引した例です。ここが生の為替フローが見えない個人投資家とはまったく違う取引手法です。これは個人投資家にはできません。

しかし、FXの個人投資家はこのようなプロの取引事例から、いわゆる一個人の取引金額は多勢に無勢であること、相場は世界中の参加者がいろいろな思惑で取引し、その結果で動いていること、プロも取引の参入や利食い、損切りのポイントとして、少なからずチャートを利用していることを理解していただければよいでしょう。